戸澤の週報

2023年10月15日

疑似環境

先日のコアスタッフユニバーシティで講演して頂いた山本貴光先生に教えて頂いた本の1冊に、「世論:Wリップマン」があります。
この本の中で、世の中に形成される世論は、人々の中で無意識に作られていく疑似環境の集合体であると言っています。
最近のお掃除ロボットは、まずは部屋を自動で動き回り、自分で空間の2次元のマップを作っていきますが、同じようなイメージです。
お掃除ロボットは自分が本当に動き周り、部屋の形を検証しているため、ほとんど事実に近い形のマップができます。
人間に当てはめてみるとどうでしょうか?
人間が実際に見聞きし、かなり深く入っていけるのは、自分の生活圏に限られてしまいます。
それでも人の頭の中には、自分が住んでいない違う県や、違う国、違う文化などの情報が入っています。
そして、生活の中で様々なことを考える時にはその頭にストックされている情報から引き出します。
ここで大事なことは、多くの情報が人間が直接得た確かな知識や事実に基づいたものではないということです。
大半が、自分で作りだしたイメージ、もしくは与えられたイメージです。
ここで言う与えられたイメージとは、ステレオタイプ(多くの人に浸透している先入観や思い込み)の事です。
我々は自分で見るよりも前に外界について教えられます。
そのため、特別な教育を受けない限り、ほとんどの人は自分に与えられたステレオタイプによって自分の判断が支配されていると言えそうです。
確かによく考えて見ると、一つ一つの物事に対して、自分で深く考えて、自分の意見を持つということはしていません。
時間がないこともありますが、一つ一つの物事は決して簡単ではなく、正しい判断を下すための情報を集めることは一般人には非常に難しいものです。
よって、私たちが自分の意見と思っているものの多くが、自分以外の誰かが行った判断の結果を自分の意見として採用しています。
学校教育はその最も最たる例と言えそうです。
幼少期から大人になるまでの過程において教えられる様々なことに対して、疑いの目を持って接している人は皆無と言って良いでしょう。
そのように考えると、自分の中の疑似世界はいかに事実に基づいていないステレオタイプに支配されているかが分かります。
これらをきちんと理解していないと、自分と同じ考えではない対立者に対して寛容になることは中々難しいものになるでしょう。
自分自身の描く考えが絶対的なものであると思い、あらゆる反論が自分への攻撃や裏切りと感じてしまうとあります。
気を付けなければいけません。
 
我々の周りには情報が氾濫しており、ネットやSNSから様々な物事の情報を得ています。
多くの情報は、真実の裏付け(ファクトチェック)がなく、ただ一方的に送られています。
ファクトチェックがなされている情報は無償ではなく有償のものがほとんどです。
しかしながら多くの現代人は正しい情報に対して対価を払うことに消極的です。
例え新聞の様にファクトチェックがなされている媒体でさえ、顧客である購読者のハートをつかむための記事もあるわけです。
このように考えると、世の中には正しい情報が駆逐される恐れがあります。
この先の世の中は、自分の中に作られるあらゆることの疑似環境に対して、出来るだけ自分で見聞きすることです。
そしてもしそれが叶わないのであれば、出来るだけ真実に近い情報を選んで疑似環境の自己マップを作っていく事が大切と言えそうです。
昔から「情報を鵜呑みにするな」とはよく言われていましたが、ようやく自分の中で腑に落ちた気がしました。

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